施工事例
S山荘
S山荘
自然を眺め、言葉を紡ぐ。八ヶ岳の別荘
自然を愛する施主様のために、八ヶ岳の麓に建てた別荘です。
木をふんだんに使い、周囲の自然と調和する住まいを目指して、施主様と約2年半にわたって打ち合わせを重ねました。着工から完成までは約8か月。目に見える空間の美しさだけでなく、厳しい冬にも安心して滞在できることを大切に設計しています。
大学教授を退職された現在は、執筆活動に力を注いでいらっしゃる施主様。完成から年月を重ねた今も、月に1〜2回、週末を中心に訪れ、時には2週間ほど滞在されます。
この場所は、自然の中で心を整え、思索し、言葉を紡ぐための大切な拠点となっています。
来たときには快適に。帰るときには心配を残さない
八ヶ岳の冬は、時に気温がマイナス20度ほどまで下がります。
山の中腹にあるこの敷地は、地面を掘ると湧水が出る場所でもありました。そこで建物の山側に溝とパイプを設け、地下水を建物から逃がすための対策を行っています。
さらに、基礎の内部には断熱した半地下空間を設けました。
この空間に給排水などの配管類と、夜間電力を利用する蓄熱式暖房器具の本体を集約。人が中へ入って点検や修理を行えるようにすることで、設備を管理しやすくするとともに、配管の凍結リスクを抑えています。
暖房設備だけに頼るのではなく、太陽の光と熱も生かせるよう、陽の入り方を細かく検討しました。建物の向きや角度を2〜3度単位で微調整し、窓から差し込む太陽光の熱を室内へ取り込めるよう計画しています。
寒冷地の別荘では、帰宅するたびに水道栓や不凍栓を操作したり、配管の水抜きをしたりと、いくつもの確認が必要になることがあります。
この別荘では、そうした作業の負担を軽くし、万が一操作を忘れてしまっても、大きなトラブルにつながりにくい設備計画としました。
到着したら、すぐに快適な時間を始められること。帰るときには、留守中の凍結や設備を過度に心配せず、安心して家を後にできること。
一年を通して住み続ける家ではなく、訪れて過ごす別荘だからこそ、その使い方に合わせた安心を、建物の見えない部分に備えています。
こうした細部まで積み重ねた設計と施工に、施主様からも「すごくいい家ができた」とのお言葉をいただきました。
暖かさと、もしもの備えを支える薪ストーブ
室内には薪ストーブを設置しました。
煙突は、室内部分を一重にすることで煙突から伝わる熱も暖房に利用し、屋根を貫通する部分は安全性を考慮した二重構造としています。
薪ストーブは、炎を眺めながら過ごす山荘らしい時間を生み出すだけではありません。万が一、断水などでライフラインが止まった場合にも、水と薪があればお湯を沸かすことができます。
日常の心地よさと、非常時の備え。その両方を支える設備です。
目線の先に、森がある書斎
窓辺には、執筆や仕事に使える造作机を設けました。
机に向かって作業をしながら、ふと目線を上げれば、窓の向こうに広がる八ヶ岳の自然が見える。集中する時間と、自然を眺めてひと息つく時間が、無理なくつながる空間です。
ウッドデッキには鳥の餌を置き、訪れる鳥や森の小さな動物たちを眺めて過ごすこともあるそうです。季節や時間によって変化する森の表情も、この別荘で過ごす楽しみの一つになっています。
木の表情を生かした、暮らしのための造作
室内には木をふんだんに使い、周囲の自然と穏やかにつながる空間に仕上げました。
ステンレス天板と木を組み合わせた造作キッチンには、調理器具やごみ箱を収納できる引き出し式の収納を設置。使うときには大きく引き出し、使い終わればすっきりと収められるよう、日々の動作に合わせて製作しています。
寝室の壁面には、一枚板の表情を生かした造作収納を設けました。
引き出しの前板は、大きな一枚の板から切り出し、元の位置関係のまま配置しています。いくつもの引き出しに分かれていながら、閉じると木目が横へとつながり、棚全体が一枚の板のように見えます。
自然を愛する施主様のために、木が持つ模様や個性そのものを、室内の風景として取り入れました。
八ヶ岳で生まれた使い心地を、名古屋のご自宅へ
別荘の造作机は、施主様にとって使い勝手のよい、お気に入りの場所となりました。
その後、「同じ形状のものを名古屋の自宅にもつくってほしい」とご依頼をいただき、新たなテーブルを製作しました。
ご自宅のテーブルは、天板をレジンで施工。色も「別荘の机と同じ色に」とのご希望を受け、レジンの調色によってその色合いを再現しています。
八ヶ岳で見つけた心地よさが、もう一つの暮らしの場所へと受け継がれました。
建物は、完成したときが終わりではありません。
そこで過ごす時間の中から新しい希望が生まれ、次のものづくりへとつながっていく。
目に見える木の美しさと、普段は見えない場所に備えた安心。その両方が施主様の滞在を支えながら、この別荘の物語は今も続いています。









